前回の稲川さんのコメントから面白そうな話題を拾ったので今回はこれでいこうと思います。
「日本の武器輸出」

 今回のテーマはインターネット上でも著名な方々がテーマにしているものなので、私自身が書ける事といったら大したことではないのですが自分の書ける範囲で基本的な事だけでも記事にしてみようかなと思います。

今回の記事を書くにあたり、下記の記事を参考にさせて頂きました
より深く武器輸出に関して知りたい方はこちら
リアリズムと防衛学を学ぶ様 (zyesuta氏) より
「日本は人道的な武器輸出国をめざす」
http://d.hatena.ne.jp/zyesuta/20100331/1269970567

軍事板常見問題&良レス回収機構様 より
武器輸出禁止原則関連
http://mltr.ganriki.net/faq05a02.html#export


kojii.net様 (井上孝司氏) より
武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (前編) (2004/7/26)
http://www.kojii.net/opinion/col040726.html
武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (後編) (2004/8/2)
http://www.kojii.net/opinion/col040802.html
再度、武器輸出三原則の話 (2009/5/25)
http://www.kojii.net/opinion/col090525.html

 さて、世界には武器(兵器)を商品として輸出している国があります。アメリカやロシア(旧ソ連)はもちろんのこと、ドイツでは有名なレオパルド戦車を輸出していますし、フランスでは自分の立場を生かし、冷戦期に西側ブロックにも東側ブロックにも肩入れしたくない第三国に武器を輸出してきた経緯があります。スウェーデンでも同様にSAAB社開発の戦闘機を始め様々な武器を輸出しています。お隣中国でも安価を武器に積極的に武器を輸出しています。永世中立国であるスイスでさも武器を輸出しています。(参考URL http://journal.mycom.co.jp/column/defence_industry/018/index.html

 こうして見ると、日本のように人道的な見地からとはいえ武器輸出を自粛している国は珍しい事であるのがわかります。これは日本という特異な環境から、こと軍事に関係する話題はアレルギーと言ってもいいほどに過敏に扱われているせいでもあるのですが、その経緯を解説すると本テーマからそれてしまうのでそこは省略していきます。ともあれ、現在の日本では積極的に武器を輸出しようとはしていません。日本が武器輸出をしようとする場合に、どのような障害があるのかを自分の浅かな知識ではありますが検証してみたいと思います。

 もし日本が武器輸出の解禁へ向かう場合、第一の壁が政治上の壁です。日本では武器を輸出することは争いに巻き込まれたり、あるいは争いを助長しかねないという観点から輸出を禁じているいるわけで、この壁を越えるには法律(体制)から変えなければいけません。すなわち、日本国民から信任を受けた政治家がそれを必要と判断しなければいけないわけです。場合によっては国民による世論の後押しが、いわゆる国民の理解が必要になるかもしれません。

 第二の壁として、はたして日本のもっている(開発した)武器が売れるのか、という壁です。これには需要の問題とノウハウの問題があります。冒頭で述べたように世界では様々な国が武器を輸出していますので、ここには過酷な競争が存在します。そういった他国の優秀な武器を押しのけて日本がシェアを勝ちとるのは容易なことではありません。その一端がこちら
ビジネス視点で防衛産業ウォッチングより
http://journal.mycom.co.jp/column/defence_industry/003/index.html

 冒頭で紹介したkojii.net様の管理者である井上孝司様が分かりやすく要点をまとめたコラムです。こういった国家間での取り決めに詳しい方ですので信頼性は非常に高いものと思われます。

 武器(兵器)産業界では民生品と違って需要に限りがあるため大量生産によるコスト削減がしづらいという側面から、できるだけ多くの受注を獲得し、単価を下げようとするために各社(各国)様々な"オプション"を付加する事によって受注を勝ち取ろうとしています。オフセットはその一環で、こういった業界では買い手の立場が強いという事が伺えます。このしのぎを削る界隈で果たして日本の武器の魅力をどこまでアピールできるか、相手は何十年も武器を輸出してきた国々ですので、そういった世界に未開拓の日本がどこまで戦えるか、といった問題があります。特にこの業界では実績がモノを言う世界で、日本は自衛隊創立から現在に到るまで実戦を経験した事がありません。(これは非常に素晴らしい事でもあります。)実績がゼロの日本の兵器がどこまで世界でシェアを伸ばせるか、難しいところです。逆に言うならば、実績さえあれば売上が好調になるのもこの業界の特徴でもあります。
フランス製対艦ミサイル エグゾセ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B0%E3%82%BE%E3%82%BB

 フォークランド紛争の際、エグゾセはメーカー側が提示したスペック通りの命中率を実戦において発揮したため、いわゆる「combat proven」と呼ばれる実績を上げたために売上が好調でした。どれだけ実戦を模した検証を行ったとしたとしてもその期待通りの数値が出ることは稀で、エグゾセはその数値が証明された稀有な例です。他にもロシア製のK-36は評価の高い射出座席です。特に射出座席はその実用性を証明するのが非常に難しいのですが、皮肉な事に航空ショーで墜落事故を起こすたびにその実績を上げてきたという経緯があります。ただ、日本に実績がないからといって日本の開発した兵器に魅力が無いのかといえばそういったわけでもないようです。
軽装甲機動車
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%BD%E8%A3%85%E7%94%B2%E6%A9%9F%E5%8B%95%E8%BB%8A

 自衛隊がイラク派遣の際に持ち込んだ装備の一つですが、こういった小銃弾に耐えられる適度な防御力と、汎用性に優れる車両は現在頻発する低強度紛争のニーズに非常にマッチした"商品"となる可能性を持っています。真偽の程は不明ですが、米軍からオファーがあったとの話もあります。

 さて、武器輸出に関してもう一つの問題がノウハウです。日本は法律により、武器を輸出するのを自粛しているので当然、日本が開発した兵器は日本で使うことのみを考えて設計されています。したがって海外へ輸出するには海外でも使う事を考慮した設計が必要なわけです。日本はこういったノウハウがありませんので輸出を解禁するにしても相当な苦労があると思われます。

kojii.net Opinion : 武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (前編) (2004/7/26) より一部引用させて頂きます。
ちなみに、航空機や AFV の輸出に際しては、JDW のサマリーを見ていればお分かりの通り、スペアパーツ、補修用パーツ、工具類、文書類、教育訓練などを含めたパッケージとして輸出するケースがほとんどだ。
http://www.kojii.net/opinion/col040726.html

 文章(マニュアル等)は当然英語に翻訳しなければいけませんし、(特に軍事用語は翻訳が難しく、誤訳が多くなってしまいがちです)専門家を通訳を伴って現地へ派遣する必要も出てきます。故障した機械の修理や、現地の要望に合わせたカスタマイズを含んだアフターサービスをする必要も出てくるでしょう。こういったノウハウは日本では皆無なために武器輸出を解禁しても思うように利益が上がらなかったり、クレームに追われる日々が続くかもしれません。諸外国から信頼を得るためには10年単位での下積みが必要と思われます。

 しかし輸出する側にも当然ながらメリットがあります。

 Opinion : 武器輸出三原則の見直しに関する疑問 (前編) (2004/7/26) より再度引用させて頂きます。
あけすけな言い方をすれば、実際に使ってみてくれそうな国に兵器を輸出することで実戦テストになり、威力が証明される。イスラエルに輸出されたアメリカ製兵器の使われ方を見れば、このことは一目瞭然。ところが、輸出先によっては「輸出した兵器が住民抑圧の道具に使われた」などといってイメージダウンになる例もあるので、EU のように、何らかの輸出制限を課している例がある。また、アメリカでは、FMS (Foreign Military Sales) 経由の輸出案件について、どこに何をいくらで輸出するかを議会に通告する、一種のガラス張りシステムになっている。
http://www.kojii.net/opinion/col040726.html

 日本が武器輸出を解禁すると、国産兵器が獲得しえない貴重な"実績と実戦データ"を得る事が可能となります。ただし、解禁するとなれば輸出をするために兵器の設計を変えていく必要がでてきます。日本の地勢に特化した国産兵器がこの影響を受けてかえって日本での運用効率が低下することも懸念されます。果たして日本は武器輸出を解禁へ向かうべきか否か、その判断は単純ではなく非常に難しいと自分は考えます。これはどちらが正しいかはやってみなければわからない事です。自分は当初は輸出解禁派でしたがこの記事を書くために調べていくうちに、解禁するべきかどうかの判断がつかなくなってしまいました。輸出解禁するべきであるか、現状のままが最善なのか、どちらの意見もあってしかるべきと自分は考えます。現在の政府は段階的に解禁に向かってはいるようですが、こういった懸念もあります。

週間オブイェクト様より
長島昭久防衛大臣政務官が日米共同MD開発計画を御破算にする可能性を示唆
http://obiekt.seesaa.net/article/162751477.html

 冒頭で述べたように武器輸出を解禁するには政治上の壁があるわけですが、仮に解禁の方向へ向かうにしても肝心の政治家が軍事に対する理解がなければ結局振り回されるのは防衛省や関連企業、という事になります…。国民の理解も重要ですが政治家の軍事、ひいては安全保障に対する理解が必要とされています。

コメント

nophoto
Kammellino
2012年8月22日14:13

That’s more than sesnilbe! That’s a great post!

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