さて、前回の記事にて貴重なコメントを頂いたので紹介したいと思います。
コメントより一部抜粋

>555777氏
>どちらが強いかはマクロにおいてはあまり意味はありませんが、ミクロにおいては非常に重要です。どちらが強いというニュアンスが正しいかわかりませんが、A とBとどの場合どう有利かを把握しておかないと作戦が立てられません。たとえば1000Mの距離で装甲を貫けるのか、命中できるのか、逆に相手の弾をはじけるのか。どれぐらいの戦力を差し向けたらどれぐらいの被害が予想されるか。こういう楽しみ方もあるんじゃないでしょうか。

 このマクロにおいては意味はなく、ミクロにおいては非常に重要という箇所はまったくその通りで、前回の日記は間違っていました。
そこで前回の日記について補足をしたいと思います。

 前回、個々の兵器の優劣を比べてもまったく無意味と書きましたが、これは個々の兵器の優劣がそのまま実戦での優劣に繋がる事はほぼないという事です。
今日は何故個々の兵器の優劣がそれほどの影響を及ぼさないかをもう少し掘り下げて解説してみたいと思います。

 まず、そもそも個々の兵器の優劣、これの判断自体が非常に難しいです。公表スペックは決して鵜呑みにできるものではありません。
有名な例としては戦艦長門の例がこちら
http://mltr.ganriki.net/faq11u.html#19293

現在は当時ほど露骨に公表スペックを詐称したりしませんが、それでも実戦において重要な箇所は軍事機密としてなかなか公開されない場合があります。
kojii.net様より
http://www.kojii.net/opinion/col100329.html
記事の内容は本日記と趣旨は異なりますが、後半部分で新型レーダーに関する質問をすると途端に関係者の口が固くなる様子が書いてあります。

 このように、軍というのは兵器の特に重要なスペックを詐称(現在はそういった事は少なくなってきたが)したり、あるいは機密事項ということで公表されない場合が多く、そもそも兵器の優劣が付けづらいのです。
 次に、スペックとしてはこうだが実戦でそれらがどの程度の成果を上げることが出来るのか、といった疑問は常につきまといます。例えばこのミサイルの命中率は何%である、という検証データをメーカーが提示する事はあっても、その数値のまま実戦で同じ命中率を出す事は稀であり、結果として実戦を経験していない兵器に関して言えば実際に使ってみないとわからない、という事が言えます。

 さらに、兵器というのは当然ながらそれ単体で戦闘をするわけではありません。
たとえば陸軍の場合、諸兵科連合といって異なる兵科を組み合わせて効率的に戦うのが普通です。戦車は重装甲と圧倒的な火力を持ちますが、反面視界が悪く歩兵の援護が必要不可欠です。兵器とは単体で運用するものではなく、必ず異なる兵科との相互支援を必要としています。兵器単体で比較してもそれぞれ兵科の連携が不十分であれば、当然そのスペックを十分に生かすことはできません。


 ちなみに個々の兵器では優位に立っていながら敗北した戦争(または戦闘)は過去にも実例があります。
wikipediaで失礼しますが
ベトナム戦争
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E6%88%A6%E4%BA%89
 ベトナム戦争では、個々の兵器では圧倒的に優位に立っていた米軍ですが、政治上の理由により敵基地を攻撃できないがために北ベトナム軍に主導権を握られ、結果苦戦しつづけ最終的には反戦世論のために敗北しました。

ブラックホークダウンで有名なモガディシュの戦闘
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%AC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%81%AE%E6%88%A6%E9%97%98
 これも米軍は兵士の質や装備では圧倒的優位に立っています。(作戦内容に反して軽装備ではありましたが)ですがカートと呼ばれる麻薬を常用した民兵は、恐怖心や痛覚が鈍くなっており、米軍は予想外の敵の反撃にあいます。また、アイディート派はしたたかで偽情報を米軍に流したり、戦術面でもヘリの撃墜を第一としたRPGの運用によってデルタとレンジャー隊は完全に主導権を失っています。


このように、
1そもそも兵器の優劣を決める事が困難である事
2兵器とは単体で運用しない事
3実例として、個々の兵器では優位にたっておきながら敗北した例がある事

 以上から、個々の兵器の優劣がそのまま実戦での優劣に繋がる事はほぼないと断言できるのです。相手よりも優秀な戦闘機を保有していてもそれを生かす電子戦機や日々の情報収集(電子戦がそもそも日々の情報収集が重要ですが)、パイロットの士気・錬度等々、自走砲で言うならば偵察機や観測ヘリ、対砲迫レーダー、またそれらから得られる情報を瞬時に共有化できるネットワークシステム及び通信システムなど、兵器は単で見るのではなくシステム総合として評価しなければいけないのです。

 結論として、重要なのは個々よりも軍全体のシステムであり、確固たる戦略目標を定め、効率よく戦い、柔軟性を保ち、いかに相手の脆弱点を突くかです。

軍として強くなるためにはどうすべきはについては
故/江畑謙介氏著による 強い軍隊弱い軍隊 が大変わかりやすく、丁寧でお勧めです。


さて555777氏のコメントに戻りますが、以下の部分
>A とBとどの場合どう有利かを把握しておかないと作戦が立てられません。たとえば1000Mの距離で装甲を貫けるのか、命中できるのか、逆に相手の弾をはじけるのか。

 まず、作戦が立てられないというのはありえません。どちらが有利であるかが判明していなければ作戦ができませんでは軍そのものの存在価値がありません。
有利不利が不明であろうとなかろうと、自分達のドクトリンに基づいた作戦を行うまでです。
戦闘による結果から得られたデータを今後の作戦に生かせるかどうかはその軍の柔軟性によりますが、まともな軍隊であればその戦闘で得られた教訓をすぐさま軍全体へ浸透させる事ができるでしょう。


最後に

 こういった意見の交流ができるのはインターネットならではの貴重な体験です。
現実ではどうしても交流範囲が限られる以上、こういった交流も大切にしていきたいと思います。


コメント

nophoto
山の老人
2010年4月10日2:35

細かい軍オタの事はわからないけど・・。
日本は専守防衛としての能力があるのか知りたい。
スパイ天国の日本で・・・例えば世界規模の異常気象が起きたときに、近隣諸国の圧力を跳ね返すだけのポテンシャルがあるのか心配だ。

colo
2010年4月12日21:30

こんばんです
世界規模の異常気象が起きたときの近隣諸国の圧力というのがどういった状況を想定をしているのか当方には理解できないのですが、とりあえずこの言葉を置いておきますね

っ杞憂

nophoto
555777
2010年4月19日1:20

>個々の兵器の優劣がそのまま実戦での優劣に繋がる事はほぼないという事です。

これについては、難しいところですね。ここの兵器の優劣がミクロの戦場において、優劣に繋がることは多々あると思いますよ。もちろん、示された例の通り、絶対ではありません。
Ⅴ号戦車の数々の武勇伝は、Ⅴ号戦車が(コストや弱点を考えなければ)個々の能力において優れていたからではないでしょうか?確かにブラックホークダウンではアメリカ軍はひどい損害を被りましたが、ほとんどの戦場では優秀な兵器運用して、優位に戦っています。彼らと同じ兵器を使った場合、同じ結果を生み出さないでしょう。もちろん、組織力やドクトリン等も重要ですが、兵器の能力が決して重要度が低いわけではありません。

個々の能力を知っていなければ作戦が立てられないというのは間違いですが、個々の能力やスペックを把握しておくことは、とても重要なことは確かです。この距離なら有利に戦えるとわかっていることは、とても大切です。能力を正確に把握することは難しいのは確かですけどね。

私は、個々の能力を比べることは決して無意味ではないと思いますよ。特に採用等を考える状況では、優劣はやはり重要です。もちろん自分たちの運用方法でとちらに優劣があるかを考えるという意味ですが。AとBを比較するとどちらかがほとんどすべての面で優れている場合もあるわけですし。

こういう交流は楽しいですね。時々書かせてもらいますね。僕は思ったことをだーっと書くタイプ(あんまり推敲しない)ので、わりと適当なこと書くかもしれませんが。

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